【映像作りの備忘録】エンデューロライダー石戸谷蓮さんのプロモーションビデオを制作した話

映像つくり

2018年12月、ご縁があってエンデューロライダー石戸谷蓮さんのプロモーションビデオをつくりました。

石戸谷蓮さんは、日本国内のオンタイムエンデューロ選手権「JEC」や、全日本MCクロスカントリー選手権「JNCC」にチャレンジしている日本人ライダーです。

自らが主催となってハードエンデューロレースCROSS MISSIONをはじめとするレースイベントのプロデュースを行ったり、世界で最も過酷なオフロードレースこと「エルツベルグロデオ Red Bull ヘアスクランブル」に挑戦する唯一の日本人(2018年現在)など、アントレプレナー精神あふれる仕掛人でもあります。

間違いなくオフロードバイク業界を牽引していっているアスリートライダーです。

 

さて、企画・構成の段階から始まり、機材準備、当日の撮影オペレショーションまで初めて経験することばかりでずっと気持ちはソワソワしていたのですが、その分とても多くの学びがあったプロジェクトでした。

少し時間は経ってしまいましたが、備忘録もかねて制作ログを残しておきたいと思います。

撮影の様子はビハインドシーンも記録しているので、併せてご覧ください。僕が派手に転ぶ情けないシーンも見れます(白目)

制作するにあたって思ったこと

秋の気配が深まってきた2018年の10月ごろ。

石戸谷さんから「一緒にプロモーションビデオをつくらないか?」とメールを頂いたのが制作のきっかけです。

Pococii FILMとしてYouTubeで映像を公開していく中で、感じたことや試したことをこのブログでアーカイブしつつ発信しはじめたばかりだったので、その記事の反響として連絡をもらえたのは嬉しい限りででした。

ただ、今回の映像は初めて身内以外の人と映像を制作する試みです。(ウエディングムービーとかは除く)

正直最初は、勝手知ったる身内の撮影とは違い、依頼主の頭の中のイメージを映像として具現化すると言う、いわばテイクではなくメイクの領域の映像制作手法に対して、チキンハートの自分としてはめっちゃビビっていました。

企画フェーズ

コンセプトワークしていた時のメモ。

最初に石戸谷さんから依頼をいただいた時、メールの文面にはこう書かれていました。

伝えたいメッセージは「楽しむことで限界を超える。限界の先に楽しさがある。」ENJOY→OVER LIMIT→ENJOY→LOOP

 

「ENJOY→OVER LIMIT……自分も中学高校時代にスポ根的な部活やっていたし、オフロードバイクも乗るから、言わんとしていることはなんとなくわかる。」

というのが、このメールを見た時の率直な感想でした。

とはいえ、これは石戸谷さんの言葉を僕の過去の経験というフィルターを通して変換しているに過ぎません。

そもそも世界の舞台に挑むライダーの思考回路を、テキスト一つでクリエイターがそのままトレースできたら、世の中の広告代理店とかは苦労しません(笑)

楽しんでバイクに乗っていると、無意識的に限界を超えているのか?

それとも、限界を超えるために楽しむという気持ち結果的に成果につながっていくのか?

とかなんとか、ぐるぐるモヤモヤと思考が巡りだしたので、石戸谷さんにアポを取り、直接会ってヒアリングしました。

打ち合わせからコンセプトの明確化

石戸谷さんのホームコースこと某所にて青空ミーティングが終わった後、自宅に戻り一週間くらい悶々と考えました。

  • 石戸谷さんが大切だと思っているレースをENJOYする気持ちを自身に置き換えながらも、
  • ENJOYによってレースが楽しくなってくることで、自身の限界を超える=OVER LIMITすることができるという、思考と身体の一体性についてリサーチ
  • 石戸谷さんが過去にインタビューを受けているネットの記事などを片っ端から読む

といったアプローチで、石戸谷さんになりきったつもりでコンセプトワークを行いました。

最終的には、

新聞の全面広告15段に、アスリート広告として石戸谷さんのことが掲載されたら、きっとこういうコピーライティングになるはず

というシミュレーションのもと、ビデオグラファーである自分の考えを具現化したコピーを石戸谷さんに送って認識を共通化しました。

時間をかけてヒアリングとコンセプト策定をすること

石戸谷さんからのメールでの内容を噛み砕いて、参考映像とともに先行して絵コンテを制作していくというのも、手段としてはあったと思います。

ただ、コンテの作成という作業は言わば映像の実制作の最初の一歩です。コンテ作成に着手するということは、「すでに企画フェーズは終わり、クライアントと相互にコンセプトが握れていて、よーいどんで走り出す作業」ということになります。

今回の映像は、Red Bull TVで流れているクールな映像のように、

観た人が「プロライダーってすげーんだな!」と思ってもらうのが目的ではありません。

「石戸谷蓮というライダーを体現する名刺代わりになる映像であり、彼がどういう哲学を持ってオフロードバイクを楽しんでいるのか?」

を最大限伝えることができるようにするのが目的です。

takeの文法での撮影なら早い

SNSでも有名な映像作家の鈴木佑介氏曰く、映像制作にはtakeとmakeの文法が存在するようです。

まず動画には2種類あると僕は考えていて、それぞれを「テイク」「メイク」と呼んでいます。

「テイク」は、“あるもの”を撮る。進行が決まっていて、それに合わせて自分が動き回り必要なものを見たままに撮っていくもの。記録やドキュメンタリー、講演会、ライブなどが当てはまります。

「メイク」は、“ないもの”を撮る。ゼロベースのものをイメージから具現化して、すべてを決めて作っていく動画です。映画やドラマ、コマーシャルやPVなどです。制作するのはこちらが難しいというか、大変だと思っています。

出典:[映像作家 鈴木佑介「定番化された一眼動画からの卒業」]

普段のPococii FILMとしてYouTubeで公開しているFUNAI RACINGの映像とかは、

すでに目の前で起きている物事に対してカメラを回して、その素材をもとに編集をおこなうスタイル

になるので、takeの文法で撮影していることになります。頭をめっちゃフル回転させるタイミングが割と制作作業の後半に集中します。ドキュメンタリーですね。

その代わり、ビデオグラファーは与えられたお題(レースやイベントそのもの)に対して、シンプルに映像に収めることに集中し、「面白さ」や「かっこよさ」は編集である程度演出していけるからです。

しかし、今回はmakeの文法で丁寧に作りたい

お題が「○○というものを表現したい」「■■のイベントの集客をしたい」という課題解決が先にある場合には、「makeの文法」で丁寧に作っていく必要があります。

どの広告クリエイティブでもそうですが、まず映像で解決したいことから逆算していきます。

  • どういうコンセプトで伝えたいか?
    -コンセプトを課題に直接アプローチできるまで言語化できているか?
  • 課題解決の映像としてどういうジャンルの映像を作るべきか?- 映画?アニメーション?ドキュメンタリー?モキュメンタリー?VLOG?etc…
  • 配信プラットフォーム、BGM決め、参考映像の収集
  • ロケーション手配、小道具手配、スタッフィング
  • 撮影
  • 編集
  • 必要であれば追加撮影
  • 再編集→確認→ループ…
  • ファイナライズして配信

今回は石戸谷蓮が考えるオフロードバイク競技への哲学をコンセプトに、メッセージを伝える映像をつくることなので、まさにmakeのパターンにチャレンジする必要があるわけです。

…まぁ僕がレースドキュメンタリーばかり撮影していたのでこんなたいそうなことのように書いてますが、基本的にクライアントがいる映像の案件というのは「フリースタイルでいい感じの映像を頼む!」と言われない限り、大なり小なりmakeの文法に沿って制作することになります(笑)

構成フェーズ

会社帰りにビール飲みながら歩いて家に帰っている時にパッとアイデアが思いつくことが多いので、しばらくの間はずっとコピー用紙を持ち歩いてて、アイデアが浮かんだらすぐにダッシュで帰ってアングルを起こしたりしていました。

  • 脳内に浮かんだイメージを吐き出すためにA4コピー用紙に手書きで絵コンテを作る。この時シーンの順序とかはあとで並び替えできるので、あまり気にしない。
  • スキャナーコピー用紙を取り込み、静止画に切り出して、Premiere Pro CCで配置してビデオコンテを作成。
  • YouTubeやVimeoで参考になりそうなバイク映像を片っ端から集める。
  • 絵コンテの流れをベースに、参考映像の似たようなシーンを切ったり貼ったりして、さらに精度の高いビデオコンテを作成。BGMとかも合わせておく。

以上の工程で出来上がったコンテを石戸谷さんと共有して、BGMが付いた状態の映像の雰囲気や、必要になりそうなライディングテクニック、マシンの構成(タイヤチョイス)を決めていきます。

当たり前ですが、アウトプットは映像という形になるので、頭の中を下手なりに画に起こす必要はあります。しかし一通りコンテを起こして思ったことは

「だいたいの作業は、その前段階のストーリー構成に終始する…Oh…ストーリー is KING…」でした。

脚本とかプロット作りとかもっとしっかり学んでいきたい。

撮影フェーズでのポイント

ロケーションハンティングは大事

普段から慣れ親しんでいるオフロードパーク白井なので、事前打ち合わせでは「第五の丸太坂を降りてきて、そのまま岩盤ステアに移動、トリックを決めて〜」と脳内イメージができていたのですが、ここはもっと詰めておくべきでした。

屋外での撮影になるので、いざ現地で確認してみると陽の向きが違って影が入り込んでしまったり、ライダーがアクションした時に画角に収まりきらないなど、コンテのイメージと違うことが予想以上にありました。

撮影に時間が足りなかった

当日は香盤表を用意して明け方から撮影を初めたものの、メインのカット以外の細かいショットが撮り切れず、翌週に追加撮影となりました。

冬だったので、陽が落ちるのが早いのを見越して結構巻き巻きで進めたものの、やはりアウトドアでのアクション撮影は、ロケハン含めて3日要るなーと感じました。

今回だと結局下記のようになりました。

  • 1日目:ロケーションハンティング
  • 2日目:本撮影→その日の夜に素材チェックと粗編を行い、不足シーンの確認
  • 3日目:追加撮影→粗編を基に不足シーンを撮影

SONY α7ⅲで初めてまともにLog撮影を行った

Log撮影は、ハイライトやシャドウがなるべくつぶれないように、通常とは異なるガンマカーブで映像を記録しておくことができる撮影モードのことです。

そもそも使っているカメラがSONYのα7ⅲ、しかも内部収録なので、所詮8bitの収録になります。8bit収録なのにLogで撮ったところで?という感もあるのですが、一度Log収録を経験しておきたかったという自身のチャレンジでもありました。

カラーコレクションで触ってみたら、確かにハイライトとシャドーの粘りがあって黒つぶれを救済できる余地があったものの、バンディング(階調が不足したことで、青空とか単色の部分に生じる濃淡の縞)が起こる箇所も多かったので、カラーグレーディングを行うなら10bit収録がボトムラインというのは本当ですね。GH5SとかBMPCC 4Kを使ってみたいところです。

あと、自分のカラーコレクションからのカラーグレーディングが素人すぎて編集しながら泣きそうでした(笑)

色に関する勉強は今後DaVinci Resolveも併用しながら注力してやっていきたいところです。

お金かかってもサブカメラを用意しておくべきだった

全く同じ機種では無いにしても、映像の色味が近くなるSONYのカメラを、サブカメラとして準備しておけばもっと効率よく撮影できたと感じました。(カメラマンがもう一人必要なりますが。)

特に、崖のようなヒルクライムを飛び切る危険なアクションは再撮影が難しい場合もあるので、ライダーに無駄にリスクを負わせないためにも、2カメ撮影の必要性を感じました。

α6500ほしいなぁ・・・

DJIのRONIN-Sは最高の働きをしてくれた

基本的に走っているバイクを追いかけることになるので、とても手持ちで追走撮影する気にはならず、DJIの片手持ちジンバルRONIN-Sを導入しました

設定と操作に少し慣れが入りましたが、搭載しているカメラがソニーのα7ⅲと言う軽量カメラだったこともあり、重さもそこまで気にならず非常に良い働きをしてくれました。

ただ…メイキング映像にも出てきてますが、カメラをオペレートする僕自身の脚力が追いつかず、途中で転倒してしまいRONINを地面にぶつけてしまうといった痛恨のミスもありました。

カメラマンやるなら、まず運動不足を解消しなければ…

ぶつけたRONIN-Sに「大丈夫?痛くない?」と必死に声をかけ続ける成人男性。

DJI MavicAirの万能っぷり

いくら電動ジンバルで手ぶれをカバーするとしても、岩場の上を高速で走っているプロライダーを追いかけることはできないので、地形の影響を受けずに撮影するためのドローンも必要になります。

その点、DJIのMavicAirはコンパクトかつ軽量で、「あー、これはジンバル持って全力で走っても追えないわ…」というシチュエーションでも、ポケットからスッと取り出してすぐにフライトさせることができます。

ドローンと言うと、上空から俯瞰的な映像を収録する時に使うのが一般的です。

しかし、ことオフロードシーンにおいては、

目線くらいの高さで一人称視点の没入感を得つつも、人間の足で追いつけないスピードのバイクのアクションシーン

といったシーンでドローンを使うのが効果的だと思っています。

もちろんドローンオペレーション中は、人間の目線の少し高い位置を飛行するので、フライト開始前に周りの人たちの安全確保と声掛けを徹底した上で、安全第一でフライトさせましょう。

三脚大事、逆に一脚はそこまで使わなかった

三脚に関しては撮影前にManfrottoのカーボン製三脚を購入しました。

マンフロットの190シリーズは、一眼レフの中型機を載せる三脚としては定番です。もちろんミラーレス一眼のα7シリーズも余裕です。
で、軽量性重視でカーボン、それでもなるべく不整地での安定性がほしいということで、4段ではなく3段のものを導入。

三脚はどうしても「もっと良い三脚はないかもっと、もっと」と三脚沼に陥るのがわかっているので、最初からいいヤツを購入していくスタンスですが、本当に狙っていたザハトラーはお値段すごすぎて手がでなかった…。

モニターがあると楽だけど、撮れ高確認の時に手間取ったので一長一短

今回の撮影ではピント合わせなどもしっかり行うために、外部モニターも導入しました。

撮影時は確かにピント合わせとかに便利なんですが、実際には映像のプレビュー時の切り替わりに5秒ぐらい時間がかかるのが毎度ストレスで、ジンバル撮影を行う後半フェーズではずっとカメラバッグの中でした。これってATOMOS製品のモニターでも同様なんですかね…?

Feelworldのモニタにしたんですが、モノ自体は悪くないです。
安価だし軽量、SONYのNP-F系バッテリーで駆動するので汎用性も高い。他の現場でガンガン使っていきたいところです。

チーム撮影の連携時にトランシーバーやBluetoothインカムが必要

アクションシーンが終了した後、映像のプレビューチェックで石戸谷さんに声をかけようにも、ライダーは崖の遥か上にいるケースがあります。

ライターとカメラマンの間にトランシーバーやSENAのインカムでも持たせておけばよかったなと感じました。

室内撮影なら声が届きますが、そこかしこで他のお客さんの2ストロークバイクが走っているフィールドでは声も届かないことが多々ありました。

被写体との意思疎通の強化が課題

カメラのRECを停めた後、自分が思い描いていた演出と、石戸谷さんのアクションのズレを修正していくために動きの指示を出していきます。この指示出しに際して、モデルに対してもう少し丁寧な指示出しができるようにトレーニングしていこうと思います。

例えば、

「夕日が西のほうに沈もうとしているから、手前の岩陰から夕日をバックに逆光の中フレームイン。フレームイン後、5m先でフローティングターンして90度向きを変え、思いっきりアクセルを開けて走り出してカメラ前を走り抜けてほしい。」

と言葉で伝えるにしても、実際にカメラの隣から言葉で示すのと、自分自身が動き回ってモデルと一緒に動きをシミュレーションするのでは、全然伝わり方が変わってきます。

時間パツパツの中でのオペレーションで忙しい場面ももちろんあるんですが、なるべくカメラから意識を離して、しっかりモデルとコミュニケーションを撮る癖をつけようと思います。

おわりに

友人の結婚式ムービーの撮影は何度か経験がありますが、オフロード・アウトドアの映像を主軸にしているビデオグラファーとして、誰かに頼まれて映像を制作するという経験ははじめてでした。

制作のチャンスを与えてくれた石戸谷蓮選手、撮影サポートをしてくれたFUNAI RACINGのメンバー一同、ロケーションをお貸ししてくれたオフロードパーク白井に、この場を借りて改めてお礼申し上げます。

最初はビビっていたものの、制作が進むにつれて脳内のイメージが確実に形になっていく手応えは、クリエイターとしてとても興奮するものでした。

ただ、ビデオグラファーとして身につけていくべきスキルや心構え、日々の生活の中で映像と向き合う時間や作業量は、まだまだ全然足りていません。

これからもカッコよくて、ちゃんとメッセージが伝わるような、誰かにとって忘れられない映像を作ることができるように精進していきます。

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